『ル・ポールのドラァグレース』の仕組みに色濃く反映しているボールカルチャーとルポールの関係性をまとめ、ル・ポールが「トランスジェンダーのドラァグクイーンを受け入れない」と発言するに至った経緯を推察しました。
・そもそもボールカルチャーとは??
ボールとは、lgbtコミュニティによる大会のことです。
大会の仕組みや、そのカルチャーの特徴はドラァグレースに多くの影響を及ぼしています。
類似点
1司会と複数の審査員がいる。
2ダンススキル、カテゴリーに合わせたコスチューム、ランウェイでの態度、ウォーキングスキルが問われる。
3優勝者にはトロフィーと賞金が渡される。
相違点
・イベントの参加者はハウスと呼ばれるグループを組む。実際に家族のような構造で家族のように支え合う。個々人で戦う時もあれば、ハウス同士で戦う時もある。
現在のドラァグクイーンも「ハウス オブ〜」の形態をとり、支援し合いながら活動してますが、ドラァグレースは必ず個々人で競い合います。
・ボールの歴史
1920年代 女の格好をした男、男の格好をした女によるボールが開かれてました。
しかし、当時はレイシズムが蔓延っており、黒人パフォーマーが勝てないように妨げられたり、審査員に黒人がいなかったり、白人でないと優勝が難しい仕組みになっていました。
そのため、1960年代から黒人自らボールを開催するようになり、若い黒人・ラテン系のゲイ、ジェンダーフルイド、トランスにとってのセーフプレイスでした。
1980年代以降、ボールカルチャーはカナダ、イギリス、日本にまで広がり、映画『パリ、夜は眠らない』によって多くの人に認知されました。
・ボールカルチャー内のトランスジェンダーを映し出すドラマ『pose』
2018年の海外ドラマ『pose』は、映画『パリ、夜は眠らない』をフィクションドラマに改作した作品です。
1987年〜1988年のニューヨークを舞台に、ブラックとラティーノを中心としたボールカルチャーが描かれています。
このドラマの製作には、多くのトランスジェンダーの方が関わってます。
振付師のLeiomy Maldonado
脚本家、演出家のJanet MockとOur Lady J
(OurLadyJはドラァグレースseason6のゲスト審査員として二回出演しています。)
そして50人ものトランスジェンダーを公表している俳優が出演しています。
「彼女たちと話してる時に思ったんだ。どれだけ彼女たちが苦しんできたのか、攻撃されていると感じてきたのか、ヘルスケアを受けることが、職を見つけることが難しいと感じているか。このコミュニティを映し出す作品を作る必要があると感じた。彼女たちへの援助が遠くまで届くことを願っている。」by Ryan Murphy(脚本家)
ボールカルチャーから生まれたダンス「ヴォーグ」の発案者であるJose Gutierez Xtravaganzaは審査員役として出演しています。
ドラマの全利益はLGBTQ支援組織へ寄付されています。
・ル・ポールの遍歴
ボールが栄えていた同時代、ル・ポールはどうLGBTQカルチャーに関わっていたのでしょうか。
・80年代 ジョージア州のアトランタにミュージシャンとしての仕事を求めて引っ越し、アングラ映画に出たり、ドラァグクイーンのvaginal davisと一緒にバッグコーラスをしてた。ルームメイトはレディバニー。
・1982年 自分の写真を「アメリカンミュージックショー」という地元のテレビ番組に送りオンエアされた。バンド形態でその番組に度々出演した。
・90年代 ニューヨークのナイトクラブでジェンダーベンダースタイルで(ジェンダーの二極化に抵抗する)パフォーマンスをするようになり、クラブダンサーとしてヒット。ドラァグクイーンとしてのキャリアはボールから始まった。
・1993年 デビューアルバムを出し、ダンスチャートで2位まで上昇。
スパイク・リー監督の『クルックリン』内でパフォーマンスをしてから、多くのテレビ番組に出るように。
ファンベースであるゲイ界隈(プライドイベントやゲイクラブ)でパフォーマンスを続ける。
・2009年 『ル・ポールのドラァグレース』が始まり、
出場者であるカルメン(carmen carrera)とモニカビバリーヒルズ(monica beverly hillz)
が、trannyやshemaleといったトランスフォビアな言葉を批判した。→後に"you've gotta shemail"のフレーズは消された。
・2018年のインタビューで「トランスウーマンはドラァグレースに多分受け入れられないでしょう」と言った。→謝罪
2018年8月14日のポッドキャストにて「トランスウーマンは素晴らしいわ。彼女たちは自然に抗おうとしてる。」と釈明。
(ジンクス曰く、「ルーは時々、観客がルーと同じ歴史を共有してるわけではないことを忘れてしまう。長年のトランスの友達との会話内で許されてる言葉が公共の場で許されるとは限らない。また、ドラァグの歴史はゲイとトランスによって作られてきた。トランスを締め出そうとするショーのあり方は矛盾してる。」)
・考察
・昔からドラァグカルチャーとも呼ばれるボールカルチャーはトランスジェンダーと一緒に作られてきた。
→「ドラァグレース」が元にしている「ボール」は性自認によって排他される場所ではない(人種の偏りは強い)
・ル・ポールは、ボールが盛んな時期にクラブで活躍していたが、「ハウスオブ〜」に属して大会に出場していたわけではない。
・ボールカルチャーを元にしているにも関わらず、「ルポールのボール」ではなく「ドラァグレース」という呼称だから様々な憶測、議論を呼ぶのでは。
・ドラァグレースには、ジンクスやチャチキなどジェンダーフルイドの優勝者もいる。
→ルポールは「ゲイ」に固執しているわけではなく、タックやパッドの入れ方が審査対象に関わるため、トランスジェンダーをレースに参加させたくなかったのでは?(尻シリコンは許容範囲の模様)
・感想
ドラァグレースがボールカルチャーに影響されていることは自明なので、カルチャーを作ってきた方々を尊重するような番組作りをして欲しいです。
ちなみに、
ミシェル・ヴィサージュは、ボール界で有名な「ハウスオブ忍者」に唯一のヘテロウーマンとして入ってたらしいです。ヘテロウーマンだってことすら知りませんでした。ルーよりミシェルの方がボールに入り込んでた事実に驚きます。
何はともあれ『pose』はとても優れたドラマなので是非観て欲しいです。
追記
https://www.them.us/story/these-queens-have-some-words-for-rupaul?intcid=inline_amp
この記事の方がルポールの考え方〜考察までぜんぜん詳しいのでおススメです
和訳する気力が今はありません、、いつか
用語
トランスフォビア トランスジェンダーを嫌悪すること
https://www.netflix.com/title/80241986?s=i&trkid=13747225
How RuPaul Changed My Life - Queer Issue 2018 - The Stranger